富士堂漢方医学研究所

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富士堂漢方医学研究所

2025/12/08

 

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日本漢方方証医学会プレセミナー報告|2025年11月30日東京


2025年11月30日、日本漢方方証医学会の設立に先立ち、SCI方証医学の基本概念を共有するプレセミナーをオンラインで開催しました。医療従事者、研究者、学生、そして漢方に関心を持つ一般の方まで幅広い層にご参加いただき、事前申込の段階から大きな反響を頂戴いたしました。


今回のプレセミナーは、前半パートと後半パートの二部構成とし、それぞれに質疑応答の時間を設けました。講演中に寄せられた多様なご質問に触れながら進行する形となり、双方向性のある学びの場として大変充実した内容となりました。


前半パートでは「SCI方証医学とは ― 基本の考え方」をテーマに、方証医学の基礎となる「症候(Symptoms)・体質(Constitution)・(Illness)から証を導く構造」を中心に解説しました。曖昧な概念を排し、現代医学的理解と臨床の実際を統合するSCI方証医学の視点を整理、続く後半パートでは、SCI方証医学を臨床でどのように活用するかに踏み込み、「SCI方証医学 各論 ― 麻黄証・麻黄体質・麻黄類方」と題して講義を実施。麻黄に関する基本的な考え方から使用方法、患者さんごとに適切な麻黄剤をどのように選択するのかまで、実際の症例を交えながら丁寧に解説しました。


初学者にも理解しやすい流れで基礎と応用の双方を提示でき、学会として今後取り組む研究・教育活動の方向性を示す機会にもなりました。終了後には多くのご好評の声を頂き、SCI方証医学に対する関心の高さと、方証医学体系化への期待の大きさを改めて実感する結果になったと言えます。


1. 講義のテーマと概要


講師紹介


許 志泉(きょ しせん)
富士堂漢方医学研究所 所長 / 日本漢方方証医学会 会長(中医師・医学博士)
➤南京中医薬大学中医学部を卒業後、同大学にて内科医師・講師として臨床と研究に従事。その後、順天堂大学医学部膠原病リウマチ内科学に所属し、2003年に医学博士号を取得。
現在は、富士堂漢方薬局において年間1,000名以上の漢方相談にあたり、 40年以上にわたり臨床・教育・研究に尽力。
主な著書:『漢方求真―体質・症候・病から探究する薬方の証』(桐書房,2018年)
その他論文・業績についてはこちらをご参照ください。所長研究業績


講演タイトル


前半:「SCI方証医学とは ― 基本の考え方」+質疑応答
➤方証医学の中核となる「症候・体質・病から証を導く構造」を中心に、SCI方証医学が重視する現代医学的根拠と臨床実践の統合について詳しく講演。最初のステップとして、患者を正しく知るにはどうすべきかを解説し、次にSCI方証医学の考え方や具体的に用いる材料を紹介、そして再現性のある診療を実現するための視点と手順を整理しました。


後半:「SCI方証医学 各論 ― 麻黄証・麻黄体質・麻黄類方」+質疑応答
➤SCI方証医学を用いた実践練習として、体質対応生薬9種類のうちひとつめの麻黄を取り上げました。麻黄に関する基本概念、麻黄剤の使用方法、適応の見極め方を詳しく取り上げ、症例を交えて具体的な臨床への落とし込みを紹介。患者ごとに適した麻黄剤をどのように選択するかを実践的に解説。


2. 当日の様子


プレセミナーの様子


当日はオンライン配信(ZOOM)の形式で実施し、開始時刻と同時に多くの方に入室いただきました。受講者は画面オフでの参加が中心でしたが、講演が進むにつれてチャット欄には質問が継続的に投稿され、内容への関心の高さがうかがえる進行でした。


前半パートでは、SCI方証医学の基本構造や概念整理を扱ったこともあり、用語の意味や構造的な理解に関する質問が比較的多く寄せられました。講義内容に沿って、基礎を丁寧に確認したいという意図が感じられるやり取りが続きました。


後半パートの麻黄に関する各論では、具体的な症例や使い分けの基準を示したことを受け、実際の臨床判断に関する質問が増加。麻黄剤の選択、体質判定との関係、鑑別ポイントなど、より実務的なテーマが中心に。


全体を通して、質問が多く挙がり、講義内容に対して各参加者が自分の理解を深めながら受講している様子が反映されていました。


3. 質疑応答での主な質問


ここではプレセミナーでいただいた数多くのご質問のうち、いくつか抜粋してご紹介させていただきます。


Q1. 初学者がSCI方証医学を学ぶ際、まず覚えるべきことは何でしょうか?


重要生薬の薬証を覚えること(例:麻黄証=表閉+水湿)
 → 表閉・水湿の意味を理解することも重要です。
重要生薬を主薬とする処方の組成を覚えること(例:麻黄湯=麻黄・桂枝・杏仁・甘草)
薬味が少ない処方から覚えていくのがコツです。複雑な処方の暗記は後で良いし、少しずつ覚えていくことで、重要な生薬の薬証と処方がリンクでき、その後の理解がしやすくなります。


Q2. 年齢や人種によって、なりやすい体質に特徴はありますか?


年齢について
・子ども:麻黄体質が多い(新陳代謝が旺盛で通常は汗がよく出るはずだが、室外活動が少なく、運動不足の子供が増えており、その場合は汗を出す機会が少なくなり、結果として麻黄体質が多くなる。また、病気になると急に汗が出にくくなるなどの麻黄証も出やすい)
・中年:大黄体質、半夏体質が増える(中年太り、飲食やストレスなどが関係)
・年齢が上がる:地黄体質が増える(下腹部が軟弱・下半身の衰え)
・女性:柴胡体質・桂枝体質がより多い印象


人種について※人種的な研究は少ないので、あくまでも推定になります。
・寒い地域の人は、汗が出にくくなりやすいので麻黄体質が多くなる可能性あり
・中国人は半夏体質が多い印象がある(胃腸が弱い人が多い。油脂多めの食生活の影響か?)
・東洋人全体としては柴胡・桂枝体質が多い傾向がある(特に日本人は、気にする文化もあり、繊細で自律神経に負担がかかりやすい)


Q.3 「証」はその時点での特徴、「体質」は長く出現した特徴とのことですが、「長く出現」とはどのくらいの期間が目安ですか?


基本的には 数年〜十数年の安定した傾向 を指します。
子どもでは短いこともありますが、一般的には年単位で続く特徴があれば体質と判断します。
また、大病後・抗がん剤治療後・慢性疾患の経過中などでは、体質が比較的短期間(数か月)で変化することもあります。


4. 参加者の声


プレセミナー後に実施したアンケートでは、「とても満足している」が 100% という結果となり、内容や構成に対して高い評価をいただきました。難易度については、「ちょうどよかった」という回答が最も多く、続いて「どちらかというと難しかった」「とても易しかった」が一定数見られました。基礎理論と臨床応用をあわせて扱った今回の構成が、参加者の経験値に応じて異なる学びを提供できたことがうかがえます。


自由記述欄にも多くのコメントが寄せられました。一部を抜粋してご紹介します。
・「SCI方証医学の考え方について、もっと知りたいと思いました!医療従事者ではない私でも、自身に当てはまる症状や方剤などがあり、とても興味深く試聴させていただきました。「20年間薬を飲んでいた方が薬を飲まずに済んだ」例や「病気じゃない時も体質改善ができる」といったお話がとても印象に残り、許先生がこれまで丁寧に患者さまに寄り添われてこられたことが分かりました。」
・「薬証を生理学的に理解する事。症状を質的・量的に見て判断する事は経験の積み重ねが必要と実感。」
・「体質という新しい概念が漢方選定に精度高く、しかも初学者でも簡単に貢献するととても感じた内容でした。」


こうしたご意見は、今後の講座や学会活動をより充実させるための重要な参考とさせていただきます。


プレセミナー満足度グラフ


5. 今後の予定


今後、日本漢方方証医学会では、以下の活動を順次予定しています。


発足日と活動概要


学会の正式発足日は、2026年1月1日を予定しており、第一回目の講座は1月25日(日)でテーマは「初級講座③:桂枝証・桂枝体質・桂枝類方-1/初級講座④:桂枝証・桂枝体質・桂枝類方-2」です。その後は2ヶ月ごとにオンライン講座を開催し、症例報告会や懇親会も予定しています。


定例講座と年間予定


・2026/01/25(日)初級講座③:桂枝証・桂枝体質・桂枝類方-1/ 初級講座④:桂枝証・桂枝体質・桂枝類方-2
・2026/03/22(日)初級講座⑤:柴胡証・柴胡体質・柴胡類方-1/ 初級講座⑥:柴胡証・柴胡体質・柴胡類方-2
・2026/05/24(日)初級講座⑦:半夏証・半夏体質・半夏類方/ 初級講座⑧:乾姜証・乾姜体質・乾姜類方
・2026/07/26(日)初級講座⑨:石膏証・石膏体質・石膏類方/ 初級講座⑩:大黄証・大黄体質・大黄類方
・2026/09/13(日)初級講座⑪:黄耆証・黄耆体質・黄耆類方/ 初級講座⑫:地黄証・地黄体質・地黄類方
・2026/11/29(日)症例報告会、特別講演、懇親会を予定


※全て録画配信(アーカイブ配信)を予定しています。リアルタイムで参加できない方も後日視聴が可能です。
※日程・内容は変更になる場合があります。最新情報は随時更新いたします。


会員募集


学会活動にご参加いただける会員を随時募集しています。詳細は〔日本漢方方証医学会公式ページ〕よりご確認いただけます。会員には、講座の会員価格での受講に加え、会員同士の交流機会、学会誌・会報の配布、さらに好きなタイミングで学べる動画コンテンツなど、継続的に学べる環境をご用意しています。


会員種類と費用は以下の通りです。
・正会員(入会費10000円、年会費10000円)
・賛助会員(年間賛助費1口10000円、口数は自由)
・登録非会員(ご登録のみ、会費なし、講演会やイベントなどの通知のみを送ってほしい方向け)


入会申込はこちらのフォームから


6. まとめ


今回のプレセミナーでは、SCI方証医学の基本構造から臨床での具体的な活用までを一連の流れで共有し、学会としての方向性をお伝えする機会となりました。チャットを通じて多くの質問をいただき、基礎と応用の双方に対する関心の高まりを改めて実感しました。


今後も、日本漢方方証医学会では、研究・教育・実践をつなぐ取り組みを進め、より多くの方に学びの機会を提供していきます。正式発足後は、講座、セミナー、動画配信、学会誌の刊行など、継続して学べる環境を充実させていく予定です。


引き続き、SCI方証医学の発展に向けて活動を進めてまいりますので、今後のイベントや会員制度についてもぜひご注目ください。